よろずや余之助ロゴ 余之助の独り言ロゴ
トップページへ移動
余之助の概要へ移動
こだわり商品へ移動
イベント案内へ移動
このページのロゴ
アクセスへ移動
関連リンクへ移動

左大臣助平(スケヒラ)の悩み 「たんころ節」

 
 競争社会の真只中で育ち、駆け抜けてきた団塊世代の人達も、最早立派な高齢者。振り返れば彼等がいたずら盛りの少年期は、大人達も結構寛容であり、馬鹿な事をやりまくっても、余程の事でもない限りゲンコをくらう程度で済まされたものであった。従って危険ないたずら遊びも随分とやったようだ。

実際夏休みになると川遊びで溺れ大騒ぎになったり、木登り競争で枝が折れ、落ちて腕を骨折したり等々、きりが無い程様々なバカガキの騒ぎが毎年のようにあったものである。

 やがて彼等は社会に出て青年期を謳歌する頃にもなると、世は高度成長の成熟期。それは努力さえすれば、そこそこ報われた良き時代であった。

今時の若者と比べると、多少の貧しさは否めないが、それさえ楽しさに変え、夢と希望は随分と大きかったように思われる。勿論助平やその仲間達も、間違いなく団塊世代の一員であり、バカ騒ぎの先頭をきっていたのも事実のようだ。

 そんな青春時代を駆け抜けてきた若者達の憧れは、カッコ良い車を持ち、ブスであろうがお構いなく、兎に角ガールフレンドを横に乗せ、フォークソングを聞きながらドライブを楽しむことであり、傍から羨望の眼差しを浴びれば「ドンナモンダ、ザマーミロ」と有頂天。最早言う事なしであった。

当時若者達憧れのスポーツカーといえば、スカG・ベレG・SSSクーペ・117クーペ・ロータリークーペ・ホンダS8・ギャランGTO・セリカ・ヨタ8・フェアレディ等々、各メーカーそれぞれ一目でそれと分る、個性むき出しの魅力が若者達を虜にしたものである。

当時の助平も御多分にもれず、実に様々な車に乗ったものである。なに特別懐に余裕があった訳ではない、学生アルバイトで自動車ディーラーの下取り車搬送という、若者にとって願ってもない楽しい小遣い稼ぎの場があった。

ディーラーでは実に様々な下取り車をオークションにかけ、競り落とした地方の自動車販売店に自走搬送する作業があり、助平も喜びいさんでハンドル握ったとか。

しかも日本車のみならず、時にはアウディーやフィアット、何故か分らぬがフォードマスタングまで乗り回したようだ。

 あれから間もなく半世紀。今では助平達は車を見てもエンブレムを見なければ何処のメーカーやら訳分らぬ。そしてふと気付けば、彼等の口をついて何気なく出る言葉が「昔は良かった」。思い起こせばガキの頃、年寄が事あるごとに、口にしておった言葉に他ならぬ。

彼等が若き頃の無鉄砲な場面を思い浮かべると、とてもじゃないが口には出来ぬ事ばかりであり、よくも命が持ったものだと、思い出すたび背筋に寒気を覚えるようだ。

そんな昭和の古き良き時代を駆け抜けてきた者達は、結構器用な一面をも持っているものだ。公衆便所で小用を足している男達を見ていてもよく解る。小水垂れつつ器用にタンを吐くオッサンを時折見かけるが、そのオッサンは間違いなく団塊代か、或いはそれ以前の人達である。

助平も一応その世代の一員ではあるが、その世代の連中と比べると、彼の体力気力は、随分と見劣りするようだ。

 数年前のこと、よせばよいのに棚の上の物を取ろうと調子に乗り、椅子の上に立った途端ひっくり返り、脊椎圧迫骨折をやってしまい、身長が1寸程縮んでしまったとか。おまけに近頃高齢者に流行りの、腰椎脊柱管狭窄症との病名を頂き、兎にも角にも体の動きが滅法よろしくない。

彼は一応リハビリに通ってはみたが、案の定続かず。今では猫背でヨタヨタ歩く始末。情けないことに何をやるにも、動作が一歩遅れ、その姿正しく真のジーサマ。

 真に穏やかなる新年を迎え、腰の痛さにやや怯えつつ、のんびり過ごした三が日。助平、運動がてら奥と共に町に出て、初売りで賑わう商店街の中を、ブラブラヨタヨタ歩くうち少々尿意を覚え、近くの公衆便所に飛び込んだ。

そこでふと、昔助平が幼少の頃、近所の爺様が、炭坑節を歌いながら小便垂れつつ、上手にタンを吐く姿が、何故か分らぬが何となく脳裏に浮かんだ。「月が〜出た出ェた〜月が〜ァ出た〜ァよいよい 三池炭鉱のォ〜上にィ出た〜」カーッ・ペッ!と歌いながら器用にタンを吐く、その仕草が真に自然でサマになっていたものである。

今や自分も既にその歳である故恥ずかしくもなかろうと、少々調子に乗ったのが間違いの元。

彼は今の自分ならば、あの当時の様な自然な形で、しかもサマになる小水を垂れることが出来るであろうと、極めて自然に思い込んだようだ。

彼は小便器の前に立つや、炭坑節を口ずさみつつ、おもむろに放水。「月が〜出た出ェた〜月が〜ァ出た〜ァよいよい」カーッ・ペッ!

ここまでは良かった、が哀しいかなペッと吐いたタンが、なんと自分の亀の頭にべっとり。

彼は目の玉が飛び出る程仰天しつつ周囲を見回せど、小便器の前ではトイレットペーパーなど勿論ある筈も無し。

結局拭くに拭けず、どうにもこうにも切羽詰まって、そのままの格好でソロリソロリと個室に移動。

周囲の者達は薄気味悪くて、こんな変態ジーサマとは関わりたくないとばかり、見て見ぬふり。

助平、何とか事無きを得たが、後味の悪さときたら、それはそれは半端ではなかったとか。怪我や病のリハビリをサボリまくったツケが、まさかこんな形でやってくるとは。後悔ひとしきりの年明け早々おめでたき助平であった。


トップページに戻る

(C)Copyright 2002-2017 Yorozuya Yonosuke All Rights Reserved.