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左大臣助平(スケヒラ)の悩み 「お座りと品格 その2」

 屠蘇の気分も覚めやらぬ、七草を間近に控えた昼下がり。 ガラス戸を通して差し込む南向きの廊下は、穏やかな日差しを程よく取り込み、外の寒気とはまるで縁の無い別天地。

助平、誠に心地よい眩しい温もりの中にて、お座りしつつ猫のタマを膝に乗せ上機嫌。ゆったりとした気分の中、地方新聞を広げてはみたものの、三面記事を半分も読まぬうち、早くもウトウトコックリ。 昼寝で時をついやしてしまうのは、あまりにも勿体無いほどの平穏な一時。

 と、そこへ娘のおまるがおずおずとにじり寄り、助平のちゃんちゃんこの袖引っ張りつつ、「父様、その〜聞いていただきたいことが…。」

助平「そのイントロには楽しき響きは感じられぬが…何やら嫌な予感すら覚える。」

おまる「父様にとって、何れ避けては通れぬ道やも知れませぬ。」

助平「一体何なのだ!焦らさずに申さぬか。」

おまる「では申します。実は父様に会っていただきたい方がおります。」

助平「それはまさか男ではあるまいな?」

おまる「そのまさかでございます。既に後に控えております。」

助平ぎょっとして振り向けば、何時の間にやら背丈6尺有余、見上げる程の巨大な若者が、縮こまってぎこちなくお座り。

慌てて出てきた奧の「まあまあこのような所でお話もなんでしょうから、どうぞ客間にお入りなさい。」との計らいで、座敷にて座卓を挟んで互いに正座。

平素であれば「どうぞ足を崩しなされ、遠慮は無用。」と言うところなれど、助平この度はムッツリダンマリ。

柄にも無く厳しい顔つきに、娘の相手なる男、カチンコチンの冷や汗たらたら。

助平、押し黙って茶を喫し、ちらりと娘に目をやれば、頃合良しとみてか、「この方が私がお付き合いさせていただいております河豚島変太郎(フグシマヘンタロウ)殿です。」

するとそのカチンコチンの若者、何とか一応の挨拶済ませるや「実はその〜お願いがあります。」

きたな、どうせ結婚前程のお付き合いを願い出るであろうと、助平半身の姿勢に構えつつ「願いとは何であろうか?」と問うと、その青年一息大きく吸い込むや「おまる様とケケ結婚させてください。」

これには助平、のっけから直球喰らい、ビックリ仰天思わず仰け反り口パクパク。威厳も何も一気に吹っ飛び、声は半分裏返り。

「あの〜、物事の順番が違うように思うのでありますが。先ずお付き合いをさせていただけませんでしょうかから始まり、そのう…然るべきお付き合いの期間を経て、その上での言葉ではないかと思うのであります。ダラダラ、ぶつぶつ…」

結局奧の「おまるの決めたことございます、親が反対する理由はないでしょう。そもそも助平殿のその態度、相変らずサマになっておりませぬ。」の一言でチョン。

河豚島青年、それでも何とか一応の答弁済ませはしたが、慣れぬ正座と極度の緊張で、足の痺れは最高潮。

 やがておまるに促され、立ち上がろうとした途端、ヨタヨタ・バリンドスン。襖にぶつかりそのまま襖もろとも、後にひっくり返ってしまい、奧とおまるは大騒ぎ。

当人焦りに焦って、慌てて立ち上がろうとしたものの、哀しいかな痺れ切ったその足は、彼の意志とは正反対。

どうにもこうにも立ち上がること全く叶わず。なれどこの上無様な姿晒せずと思えど、結局どうにもならず、這い這いしつつ玄関へ。

おまるはアタフタ、奧は口あんぐり、助平1人憮然と茶を喫しておるようだが、よくよく見れば、湯呑みの中はとっくに空っぽ。

騒ぎそっちのけで助平、吾のサマになる図とは一体如何なる姿であろうか、と腕組みしつつ天井睨み考え込むその姿、確かに品格の文字は何処にも見当たらぬ。



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