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左大臣助平(スケヒラ)の悩み 「お座りと品格 その1」

 近頃の男子には、哀しいかな正座の出来ぬ者が大層多いように思う。日本男子たるもの、正座もまともに出来ぬようでは、将来が思いやられると、柄にも無く助平一人前に一応悩んでみる。  助平の家では、居間は勿論、客間や寝室・書斎等総て昔ながらの座敷である。

それぞれ部屋の真ん中には大きな座卓が居座っており、客間の床の間には奥方が友人のツテを頼って、ある書家に書いてもらった掛け軸。

一見何が書いてあるのか解らぬが、判読すると「いろはにほへどちりぬるを・・・」何故このような掛け軸を作ったのか、あの夫婦には聞くだけヤボかも知れぬ。


 ところでこの館には滅多に客人は来ない。 嘗て客間に通された者の話によれば、お座りに慣れてない者は一度行くと懲りてしまうらしい。

座卓を挟んで助平と対峙し、「ささどうぞ楽にしてくだされ」と言われても、当の助平は座布団も使わず畳に正座。これであぐらをかく者は、よほどの猛者か、或いはネジが少しばかり弛んでいるか、何れかであろう。

奧がうやうやしい仕草で運んできた茶を喫しつつ、そのまま小半時ほど。用談が済み、客が帰ろうとしても先ず立てぬ。

助平が極めて自然にすんなり立ち上がるので、やせ我慢しつつ、思い切って立ち上がると、決まってヨタヨタ・ドスン。

「あれま!どうなされた。こりゃいかん、客人が倒れた。」この言葉で客人は尚一層慌てふためき、這うように玄関に。ほうほうの体で退散するようだ。


 助平は別段茶道の心得がある訳ではない。昔より食事は家族で、茶の間で座卓を囲んでいただいておるが、彼が幼少の頃は何処の家庭でも、ちゃぶ台を囲み父はあぐら、子供達はきちんとお座りをして、飯椀をかきこむ姿、これはごく当り前の光景であった。

ところが助平の父は「男はアグラで飯を食すべし。これ我家の仕来たり也。」と正座をさせなかった。

しかし足の短い幼少期にアグラは決して楽なものではない。仕方なくオヤジ座りで、食事をしたものである。

彼がアグラから開放され、念願のお座りが出来るようになったのは、成人し一応一人立ちなる生活が出来るようになってからである。

その反動もあろうが、正座で食事をすると、姿勢が良いせいか、食物の通りがよろしいようで、結構良く食える。


 所変って、これが旅館の大広間での宴会ともなると、助平少々きまりが悪い。

一同皆アグラで酒を飲み、正座は助平ただ1人。しかも配膳係りの者から「まあまあどうぞお楽になさって、お座布団をお使い下さいませ。」と言われても、彼は別段遠慮している訳ではない。

ふっくらパンパン座布団の上で正座すると、バランスを崩し、ひっくり返ってしまうのである。止む無く座布団使わずお座りする訳だが、傍目には恐ろしく躾け厳しき家柄の者かとの印象を与えてしまう。

確かに一切喋らず、黙って座っておれば、周囲の者には何となく、それなりの品格を与えてしまうのは、不思議というよりむしろ滑稽である。



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