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左大臣助平(スケヒラ)の悩み「育児ノイローゼ」

 助平の館裏庭に子猫が二匹放り込まれたのは、出番を終え道端に横たえられた短冊だらけの竹が、「なんだよ!チヤホヤしておいて、七夕終われば唯のゴミか。」と、まるで竹のぼやきが、熱暑の蒸し風の中に聞こえてこそうな、夜半であった。

助平の娘於丸は風鈴の音の中、微かに混じって聞こえる、如何にも心細き動物らしき鳴き声に気付き、恐る恐る月明かりの中庭に目を凝らすと、灯篭の影から生後間もない2匹の子猫が、ヒョロヒョロ・ヨタヨタ擦り寄って来るではないか。

1匹は生後7日程と思われる、片手の平にスッポリ納まるトラ。もう1匹は何故かそれより2週間程先輩格と思しき三毛。

何故このような所に子猫が居るのか、不思議と言おうか、不届き者の仕業というか、何れにせよあまり愉快な出来事で無い事は確かだ。

しかし助平の家族には、一体何者が斯かる不届きなる振る舞いに及んだのか、などと詮索すること自体、なんだか億劫なことであるようだ。

 しかし子供の頃、猫と大喧嘩して負けた挙句、咬まれた腕が腫れあがり、高熱にうなされ、駈けつけた医師を呆れさせた助平にしてみれば、未だに猫とは相性がよろしくない。

翌朝のこと、彼は猫をつまみ上げ、屋敷の外に連れ出し、近隣の大根畑にポイッ。そのままさっさと家に戻ったが、猫達もしっかり彼の後に従い、ミャーミャー・ヨロヨロ、結局元の木阿弥。

それに気付いた於丸、あまりの哀れさに涙しつつ、「父上、この子達の面倒は於丸が看ます故、どうぞ飼わせてくださいませ。」同時に奧の「このまま他所に捨てれば、結局助平殿も不届き者になりまする。」の一声で止む無く飼う事になったようである。

 於丸は喜びいさんで、子猫の世話に掛かりきり。食事や下の世話はまだまだ序の口、くしゃみ・鼻水・目ヤニがでては医師の元に飛んで行き、夜ともなれば、食事を摂りつつ寝こけるトラを恐る恐る寝床に移した途端目を覚まし、又もや食事に戻るの繰り返し。ようようのこと寝かしつけ、続いて自分も布団にバッタンキュー。

 これまでは奧にたたき起こされるまで、朝を迎えたことに気付かぬ娘であったが、夜明け前の薄暗がりの中、姉の三毛は外に出たがり、ミャーミャーガサゴソ。

於丸、やむなくのっそり起き出し、寝惚け眼こすりつつ、トイレの掃除やら食事の世話やら相変らずのテンヤワンヤ。

 そんな於丸の悪戦苦闘の日々もお盆を迎える頃になると,彼等も一回り成長し,わずか1月程だが,目方は2倍,丈は当然一回り成長。あのヒョロヒョロ・ヨタヨタが、すっかり豹変、今ではアチコチ跳ね廻り ドタバタ・ガリガリ。

確かメスの筈だが、兎に角暇さえあれば取っ組み合いのプロレスごっこ、娘らしさのかけらもなし。

於丸の躾が悪いのか、それとも持って生まれた性質(タチ)なのか、定かではないが、今更どうにもならず。助平1人吾関せずとばかり、しらんぷり。

しかし何故かは知らねど、一応天敵である筈の助平にも擦り寄っては、ノドの辺りからゴロゴロ発する快感ポーズに、しかめっ面も大人気ないと撫でてやる。

 あれやこれやの初体験に、平素あまり使わぬ知恵絞りつつ、乳児期の難局も何とか乗り越えたはよいが、今度は成長期のイタズラ盛りに、結局於丸が息抜きできる日は当分望めそうにない。

奧に「そなたを育てた時に比べれば、猫の飼育など屁のようなもの。」とは言われても、彼女にしてみれば、苦難の日々は未だ序の口の如き心持。

 猛暑日なる言葉が、ごく当り前に使われるようになり、寒暖計を見るのも忌々しく思う昨今。テレビでは天気予報の予報士が「この暑さ、10月迄は続くでしょう。」と涼しい顔で述べている姿に、疲労ピークの於丸、柄にもなく激怒し、テレビ画面に水ぶっかけ「愚か者!正しい予報をただ々淡々と述べるバカが何処におる。もそっと労わりの顔付きが出来んのか。」と八つ当たり。

どうやら彼女の育児ノイローゼも、いよいよ本番を迎えたようであるが、猫を育てているのか、はたまた猫に育てられているのか、傍目には何とも言いようのない猫騒動である。


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