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<<<<<< 左大臣助平(スケヒラ)の悩み「好色二代」 >>>>>>

 一昔ほど前においては、坊様と教壇に立つ男は得てして好色な者が多いなどと、まことしやかにささやかれたものであった。真面目に勤めるとストレスが溜まり、そのはけ口に色事に奔ると言われるらしいが、それはあくまで内向的、且つクソ真面目な男の場合に当て嵌まることであり、生まれつきの色好みとなると話は別である。

 助平の古き遊び仲間の一人に、何故か大学教授になってしまった男あり。

 巷では神のいたずらであろうと噂されたるこの男、『好色』という言葉のために生まれ出たかのような男であり、名を股下茂成(コシタシゲナリ)という。
 その名のとおり、彼の下半身は確かに異様に毛深く、しかもその道においては人並み外れた根性を持っておるとか。

 茂成は親の代より教壇に立つことを生業としておるが、親子揃ってその好色ぶりには、呆れを通り越し、むしろ見事というべきものを感じさせるようだ。

 彼はまた酒もこよなく愛し、酒席には助平も同席すること一再ではない。
 ただおとなしく飲んでいるうちは傍目には比較的上品に映るが、一定量を超えた途端、彼の人格は豹変するのである。
 その視界に何であれ、とにかく身体に女性である証拠の品物さえ具わっておる人物がおれば、「シワクチャだろうがオカメだろうが何だっていい」のである。

 余人の理解を得るには甚だ難しきことなれど、実は彼は己のその異様な能力を維持する為に、大層涙ぐましき努力をしておるようである。
 朝は4時半起床、犬の散歩を2時間、その後家庭菜園にて鍬振り回すこと1時間。朝飯は納豆で丼飯をやっつけ、口の端に飯粒付けたまま、慌てて講義に駆けつける。
 斯様なる生活を20年も続けておれば、如何にシケタ者でも、その下半身は衰えを知らぬとか。

 当然、彼の最も好みとする芸術鑑賞はストリップである。その鑑賞方法については、確かに一朝一夕には身に付かぬ技がある。
 先ずもって顔など二の次、女の身体のみ観ることを旨とす。さすれば自ずと体を観ただけで、誰であるかの判断がつき、改めて顔を観る必要も無い。(彼にとって顔などどうでもよいのであるが)

 この極意、彼は今は亡き父に伝授されたそうな。

 その昔、現役の教師時代における彼の父親は、極めて謹厳実直との評価を、周囲から頂いていたようである。ところが休日ともなると、謹厳実直なる面体そのままに、弁当持参でせっせと浅草のストリップ小屋に通い、裸体の研究に余念がなかったそうな。

 その異様なまでの探究心に、彼の母は全く口を挟む余地は無かったとか。
彼女はただただひたすら夫の奇癖が世間に漏れぬよう、隠し通すに大層骨を折ったようである。・・・巷にはとっくの昔に既にバレ、知らぬは当人ばかり也。

 助平も若き頃、この父親より随分と色事の指南を受けたようであるが、さすがにあまりの馬鹿馬鹿しさに、ついてゆけぬものがあったようだ。
 しかしながら、哀しいかな少なからず、その影響を受けてしまったことは否めない。

 たまさかに茂成がやって来ると聞いた途端、助平はじめ余之助の連中は慌てふためき逃げ場を探せど無駄あがき。
 結局彼等は間違いなく酒席に同席させられる羽目になり、多少の我慢は覚悟の上なれど、それより何よりオナゴを隠すに大慌て。

 時折「スケベイな男一人に振り回されて何とする!」とばかり意気込む、活きの良い女将もおるにはおるが、酔った茂成に突然のしかかられては、啖呵ら切るどころか、乱れたる裾やら襟やら庇いつつ、ほうほうの体で逃げ出す始末。

 なに!斯かる事態に助平は一体何しておるかと?

 知れたこと、女将より先に逃げ出し、後からほうほうの体で逃げてきた彼女に、散々八つ当たりを喰らい、座布団被りコタツに潜っておる図、想像するに難くない。

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