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<<<<<< 信濃の国のまんじゅ姫 >>>>>>

  信濃の国は真田の里より山二つ程越えたる処、通称「かび股村」と言われる、多少ではあるが、一応歴史ある、小さな村落あり。

 その村長(ムラオサ)宅には少々行きそびれの娘あり。出遅れと言ったところで、たかだか十数年のことであり、ただただ気を揉むのは両親祖父母、縁戚連。当人ケロリ他人事の如し。左様なる事は大きなお世話とばかり、全く以って無頓着。

 しかしながら余人からして見れば、何故出遅れか少々気になるところ。ご当人の容姿、こっそり覗き見れば、やや小柄、ずんぐりむっくり、垂れっ尻。戸棚の中で忘れられ、干乾びかけたあんころ餅の如き面体に、一瞬の怯みを覚えるも、ただ何処となく愛嬌感じさせるは唯一救い也。

 この娘の縁戚を辿ると、助平に突き当たると言っても、今更読者は驚かぬであろう。この娘、何故か村人達より「まんじゅ姫」と呼ばれ、存外親しまれているとのこと。その名前からして、凡そ察しはつくであろうが、彼女の饅頭作りに対する執念は尋常ではない。

 いわゆるタンサン饅頭といわれる、田舎饅頭であるが、これが極めて不細工なる作品であり、またその味たるや、よほどの物好きでも二つ目に手を出す勇気は持ち得ないであろう。実は助平、この娘御が大の苦手である。

 雪も見ぬまま弥生に入るや否や、何故か狂ったように吹きすさぶ空っ風。爺や厨から一歩外に出た途端、針風まともにそのシナビタ顔に受け、形だけ残った髪の毛と共に飛散したる鼻汁、ひょいと出くわした婆やの袖にベトッ。般若の如き婆やの形相に爺や腰砕け、ヨタヨタと助平の許へ逃げ込み、ほっと一息。

助平: ン?爺、腰抜けたか。大方婆やの前でしくじりを致したのであろう。多少憐れではあるが、ソチの汚き尻を拭く気にはなれぬな、諦めるがよい。
爺や: 情けないお言葉、爺は助平様幼少の頃よりお仕え申して参りました。当時、それはそれは気立ての良い聡明なオボッチャマでございましたが、どこでどうネジの巻き方が狂ってしまわれましたのか。どうせ先の無い身の上、いっそ饅頭食して死のうかとさえ思ってしまいまする。
(しおらしくうな垂れ、腰の毛拭い目に当てるが、これが全く濡れもせず)
助平: 饅頭食して死ぬるものかの?随分と世話の無い死に方ではないか。
爺や: まんじゅ姫様のお作りになったお饅頭だけは別でございます。助平様はとかく爺に押し付けまするが、1個食する度に爺のはかなき命は削られておりまする。
助平: あれ程不細工な饅頭も珍しいものよ。先日無理やり持たされた饅頭には餡が入って無かったの。
まんじゅも、もそっとまともなものに凝れば、少しは男達も寄り付こうものを。
爺や: やたらお噂なぞ致しますと、ロクなことはございません。
・・その言葉言い終わらぬうちに、ペペペ・ペペペ(邸内に鳴り響く電話の音)
爺や: 助平様、まんじゅ姫様よりお電話でございます。何と、饅頭お作りになりました故、食べに来られませとのお言葉・・・。
助平:何とな!そりゃいかん。あのクソ不味い饅頭、到底手に負えるものではない。余は行かん、ソチが行くがよい。
爺や:  そのお言葉、既に聞かれておられるかと。
(手には子機、通話口はしっかり助平に向けられ、そこからは何やら金切り声の如き音声が漏れ聞こえ。助平慌てふためきつつ、爺や睨みつけ。)
助平:人間、修行が足りぬ者程、年と共に我が儘でクソ意地が悪くなると言うが、正にその通りであるな。
爺や:申されましたな。世に我が儘の手本たるは、助平様をおいて一体何処におりましょう。事あるごとに奥方様の勘気被り、尻拭きの役目、全て爺ではございませぬか。
後家の許に夜這いに行かれ、間違って婆様の布団に潜り込み、しがみつかれた挙句、爺に後を押し付けられたのも、お忘れになったとは言わせませぬ。
助平:そう言えばあの婆様には懲りたの。「何を無体な事を!無礼は許しませぬぞ」と言いつつ、手は余を離さぬ。余は恐怖のあまり腰が抜けるところであった。
・・・結局バカな二人の言い争い、爺の持つ子機より、まんじゅ姫にすっかり聞かれ、「叔母様に全てバラス」と脅された挙句、二人揃ってかび股村に行く破目になったとか。

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